BtoB中小企業が行うマーケティングの流れは大きく分けると「分析・認知・検討・商談」に分類できます。一般的な手法はもう少し細分化されますが、BtoB中小企業がそのまま実践することは現実的でないこともあります。例えば、BtoC大企業は最初に「市場調査、セグメンテーション、ターゲッティング」といった手順をとりますが、BtoB中小企業が同じ手順をとれるでしょうか。省略してよい所、重視すべき所を見極め、自社なりのマーケティングを行うことが最善だと思います。ここではBtoB中小企業が取り組みやすいマーケティングの戦略を紹介させていただきます。

目次

分析「誰に何を伝えたいか」

最初に分析を行います。自社の提供できるサービスや特徴は何か、どのような企業を探しているのか、その市場はどのくらいの規模かを分析していきます。例えばWeb制作会社だと「直接取引できる企業」を探すのか「広告代理店や制作プロダクション」を探すのかで戦術が異なります。それは自社の強みとも関わってきて「技術力に自信があり、制作に集中したいから広告代理店を探したい」会社もあれば「制作だけではなく、戦略から運用まで行って企業をサポートしたい」会社もあります。

そこからターゲットを細分化することと、自社の強みは競合とどう区別化できるのか、という点を掘り下げていきます。3C分析などのフレームワークを用いて「顧客・競合の状況・自社の特徴」を整理しておくとよいでしょう。簡潔に言いますと「誰に何を伝えたいか」という視点が必要です。

ターゲットを絞る

ターゲット、自社の強みを絞るのも一つの手段です。「東京のWeb制作会社」よりも「Shopifyを用いたECサイト制作が得意な会社」「BtoCランディングページ制作に特化した会社」などの方が強みが明確に伝わります。絞れば絞るほど競合は少なくなるメリットもありますが、ターゲット数も小さくなるデメリットもあります。バランスをとって、競合相手と十分戦える土俵を見つけるとよいでしょう。

認知「どのようにして知ってもらうか」

契約をゴールだとすると、お客様に知ってもらうところがスタート地点になります。知ってもらわないことには、いくらサービスに自信があっても契約には繋がりません。まずは知ってもらうことがマーケティングの第一歩になります。

認知は「紹介」が強い

小規模のBtoB企業が認知してもらえる接点としては、検索エンジン経由、リスティング広告、SNS、紹介などでしょうか。よく「営業などしなくても良い仕事をしていれば次に繋がる」と言われる方がいますが、この場合、認知や検討を「紹介」で補っていることになります。

紹介者がお客様に御社のサービスや品質などを伝えてくれて、最初から信頼のある状態で繋がれるという、とても強力な手法です。認知と検討を超えてほぼ成約手前のところまで来るので、紹介が多い企業は営業不要と断言しているのも頷けます。紹介してもらえる施策があれば「紹介」が最も強い方法ですが、人が介在しているので、その属人的な手法をコントロールすることはとても難しいと思います。弊社も紹介してもらう機会はありますが、定期的に発生する訳ではありません。そのように「紹介」は不安定さがあるため、継続的にマーケティングを強化してくのであれば、Webマーケティングが良策であると思います。

Webマーケティング戦略

Webマーケティングは、ランディングページ、コンテンツマーケティング、SEO、ホワイトペーパー、セミナーなどがあげられます。お客様にとって有益な情報を発信して接点を作る手法です。ただし、同業他社も同じようにWebマーケティングを展開していますので、その中で自社を見つけてもらうことは簡単ではありません。根気よく質の高い情報を発信し続け、検索エンジンからサイトが評価されて、徐々にユーザーの目に触れるようになります。多大な工数をかけて、ようやくスタート地点に立つことができます。

フローとストック

マーケティング活動はずっと続いていくものなので、戦術としては、できるだけストック型が望ましいです。Webマーケティングでいえばストック型はコンテンツ制作で、フロー型はリスティング広告、営業代行などが該当するでしょうか。短期的に集中して成果を出したい場合はフロー型が有効ですが、継続的に行うことは難しいので、ベースはストック型(コンテンツ制作)で取り組むスタイルが良いでしょう。

関連記事:マーケティングを意識したコンテンツの作り方

コンテンツマーケティングはすぐに成果が出ない

いくら良質なコンテンツを発信しても、すぐには成果が出ません。特に始めの頃は気合を入れて大作を作るのですが、ページビューも少なく成果も出なくてショックを受けて更新が停滞することがあります。でも、それが普通なので、気にする必要はありません。すぐには成果は出ない前提で実行しましょう。弊社でも芽が出てきたかもと思ったのは1〜2年後くらいです。

営業代行

認知を営業代行サービスに頼む方法もあります。サービスや費用体系は各会社によりますが、年間利用料やアポイントごとで相応の費用がかかるものが一般的なようです。コンテンツマーケティングで成果が出るまでの工数をかけるか、外部の営業代行サービスに支払う費用をかけるか。また、一口にBtoBと言っても、業種によって案件の単価や顧客継続維持率も異なりますので、Webマーケティングと営業代行サービスのどちらが費用対効果が高いかは個々によるかと思います。営業代行サービス自体を敬遠される方も多いと思いますが、すぐにリードが欲しい時は有効な手段と言えるでしょう。

メールや営業電話など

それ以外に認知ができる手法としては、営業電話、メール営業、ダイレクトメール、飛び込み営業などがあります。営業電話と飛び込み営業は、相手の時間を強制的に奪う行為なので、個人的にはあまり好ましく思っていません。メール営業はやり方次第で、熟練度が高くなくても成果が相当変わります。いかにもメール営業という内容で不特定多数に送信しても成果は出ませんが、例えば「制作パートナーを募集しています」という企業に対して、真っ当なアプローチを行うと返答率は高くなります。弊社でも一時期制作プロダクションに対してそのようなアプローチをしていましたが、面談率は3〜40%くらいあったと思います。

ラブレターは届く

メール営業は定形文ではなく、きちんとその企業のことを理解した上で、魂が込められたメールであれば、相手に伝わる可能性がぐんと高くなります。私も本当に好きな企業に対してそのようなメールを送ったことがありますが、返信率はとても高かったです。逆に考えると、自社のこういうところが好きで、こうしたらもっとよくなるので提案させてください、と言われたら少し話を聞いてみたくなるのが心情ではないでしょうか。ただ、問題は本当に好きな企業でないとその思いが滲み出てこないので、出せるメールにも限度がある、ということです。後は特定電子メール法も忘れずに。

検討「自社の強みは何か」

コンテンツマーケティングなどの手段を用いて、お客様になりうる方に自社のことを知ってもらえたとします。ただ、この段階ではお問い合わせや契約にはすぐに繋がりません。なぜなら、お客様にとっては複数社の候補や既存取引先があるからです。ここで強みになるのがサービスの種類と質。同業他社と比べて何が強みであるか。また、それがWebサイトで分かりやすく伝わるようになっているかが重要になります。

この段階まできて、ようやく自社サイトが力を発揮します。自社の強みは何か。全ページ見てもらわなくても伝わる設計が必要です。また、担当者が社内共有するために、自社の情報が集約されたPDFがあってもよいかもしれません。自社の強みも大事ですが、それが伝わる施策も重要です。端的に、分かりやすく。強みをきちんと知ってもらえることがWebサイトの役割になります。

スムーズにお問い合わせしてもえられる配慮を

お問い合わせしようと思った方が、お問い合わせフォームの項目数が多いなどの理由で離脱するケースもありますので、ユーザー目線にたって分かりやすくデザインしておく必要があります。「すぐにお問い合わせページへ移動できる」「SSL通信になっている」「お問い合わせフォームがある」「フォームの項目が適切である」は意識すべきです。

お問い合わせの数と質の調整

お問い合わせフォームの項目次第で、お問い合わせの数と質が変動してきます。項目を細分化して、希望の見積もりやスケジュール、要望など事細かに入力させるフォームにすればお問い合わせの総数は減りますが、その会社に依頼したいという強い思いがある方からのお問い合わせの比率が高くなります。お問い合わせの数を減らして質を高めたい場合はフォームを細分化すべきで、お問い合わせの数を増やしたい場合はフォームをシンプルにしておくと良いでしょう。クロージングに自信がある場合も、シンプルなフォームにして数を増やす方が効率的だと思います。

ただ「デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?」ではお問い合わせの質を高めれないと書かれています。

デジタルでは「見込み客の質」を高められない
「問い合わせ」フォームに要望を入力しなければ、コンタクトが取れない仕様になっていたとしましょう。しかし、生命保険を検討するユーザの大半は、保険の選び方を知らないファミリー層です。「要望を書け」と言われても、何を書けば良いかわからず問い合わせてもらえません。
【引用元】デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか? P.40

マーケティングで有名なWeb制作会社ベイジさんのブログでは

2018年は数ではなく質にこだわります。HubSpotを導入すると同時に問い合わせのハードルを上げて、特に予算・納期・価値観が合わないリードは減らします。これは双方のためです。
【引用元】https://baigie.me/sogitani/2018/01/2018/
2017年は408件ありましたが、2018年は175件に減少しました。原因はお問い合わせに予算制限を加えたためです。2018年終了時点では、予算500万円未満のお客様はお問い合わせできないようになりました。
【引用元】https://baigie.me/sogitani/2019/01/2019/

とあります。最初の引用はBtoCということもありますが、どちらの意見も正しいと思います。条件次第でコントロールできる局面できない局面があるのだと思います。Webマーケティング始めの頃は、ハードルの低いフォームで問い合わせ総数を増やす方向が良いでしょう。

見込み客育成とは

よくマーケティング関連の書籍などで「見込み客育成(リードナーチャリング)」という言葉を見かけます。これは認知してもらってからお問い合わせをもらうまで、もしくはお問い合わせはあったけど契約まで至らなかった方に対して、自社のことを継続的に認知してもらうため(かつ理解を深めたり、印象をよくしたりするなどの)手法です。単価が高い業種の場合、対象となる方が多い場合に有効だと思います。

商談

お問い合わせをもらってから商談フェーズになります。昨今の状況では、メールやビデオ通話で契約まで完了することもありますので、実際に会ってのコミュニケーションスキルよりも画面越しで信頼してもらえるかがより重要になってきます。

どれだけ対応に時間をかけられるか

全てのお問い合わせに対して、お見積もりや提案などに時間をかけることができればそれに越したことはありませんが、お問い合わせの数や内容、営業リソースを踏まえると、全て全力で対応することは難しいかと思います。

お問い合わせも「自社だけにきている」のか「複数社にお問い合わせしている」かで成約率は違います。また「この仕様で作って欲しい」と「こういうことがしたいから提案して欲しい」では返答にかかる時間が異なります。「複数社にきているお問い合わせで、企画を提案して欲しい」というものにどう対応するのか。時間をかけずに提案したものが通る確率は低いのは当然ですが、時間をかけた完成度の高い企画が必ず通る保証もないので、その判断はとても難しいと思います。無駄なロスは避けたいですが、無駄なロスは避けたいという姿勢が伝わるのは印象悪いので、リソース量とは別にして、お問い合わせには誠実に対応すべきでしょう。

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を意識する

BtoB企業は業種にもよりますが、一度契約して終わりではなく、継続して取引していく関係性になるかと思います。既存取引先のこれまでの受注額を計算すれば、1件新規に取引先が増えるとどれだけ利益になるかは予測できます。あとはお問い合わせからの受注率を照らし合わせれば、お問い合わせにどれだけ時間をかけて良いかの目処がつくのではないかと思います。1案件受けるという捉え方ではなく、一社取引先が増えるという捉え方だと、1件のお問い合わせに対してどう向き合うかが変わると思います。

お問い合わせの質とは

上述にもありましたが、お問い合わせが「自社だけにきている」のか「複数社にお問い合わせしている」かという点。そして、予算感スケジュール感、仕事に対する姿勢などの相性がよい会社からのお問い合わせが質が高いと言えるでしょう。そのようなお問い合わせがくるかどうかは「認知から検討」段階に依存します。

まとめ

会社のことを知ってもらうこと、お問い合わせをしてもらうこと、契約に結びつけること。それぞれ別の施策が必要で、そこで求められる技量も異なってきます。現状を分析して、どこを強化する必要があるか、戦略的にマーケティングに取り組むべきでしょう。